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仙台高等裁判所 昭和26年(う)519号 判決

控訴人 検察官 残間利

被告人 春山一郎又は洪一郎こと洪淳与

弁護人 菊地養之輔

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台地方裁判所登米支部に移送する。

理由

原審検察官副検事残間利の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

原判決を調査するに原審は被告人に対する酒税法違反被告事件につき被告人を懲役四月及び罰金六万円に処する。但し裁判確定の日より四年間右懲役刑の執行を猶予する旨の判決を言渡している。しかし裁判所法によれば簡易裁判所の裁判権の限界が明定されていて刑事事件に関しては原則として禁錮以上の刑を科することが出来ない。この制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは事件を地方裁判所に移さなければならないとなつているのであるから原審が本件につき懲役と罰金を併科するを相当と認めた以上懲役刑につき執行猶予を付したとしても其の裁判権の範囲を逸脱して不法にその管轄を認めて判決した場合に該当すること明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十八条第一号、第三百九十九条により原判決を破棄して本件を仙台地方裁判所登米支部に移送すべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 檀崎喜作)

検察官副検事残間利の控訴趣意

一、原判決 原判決は主文において被告人を懲役四月及び罰金六万円に処する。右罰金を完納しないときは六百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する本裁判確定の日より四年間被告人の右懲役刑の執行を猶予する旨判示したけれども此の判決は次の理由により破棄を脱れないものと思料する。

二、管轄権の逸脱 原判決は昭和二十五年八月八日登米区検察庁検察官より登米簡易裁判所宛公判請求した酒税法違反被告事件につき、同裁判所より本件被告人に対して言渡されたものであるが裁判所法第三十三条に拠れば簡易裁判所の裁判権は刑事の場合原則として罰金以下の刑にあたる罪等に限られ禁錮以上の刑を科し得る場合は窃盗罪等に限定されており、右制限超過科刑相当事件は、これを地方裁判所に移さなければならないと規定されている。この制限は簡易裁判所がその言渡した禁錮以上の刑に執行猶予を付した場合でも同様と解しなければならないことは本条の立法趣旨よりして当然と考える。従つて本件の場合、事件を前記の移送相当として、地方裁判所に於て判断すれば格別、そうでなければこれに懲役刑を科することはできない。然るに原審は右移送の手続をとることなく、本件に前記の如き言渡をしたのは、その管轄権を逸脱して為した違法な判決をしたものであるから原判決破毀の御裁判を願いたい。

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